は荘厳な幅広い焔のようだ。重々しい、秒のすぐるのさえ感じられるような日盛りの熱と光との横溢の下で、樹々の緑葉の豊富な燦きかたと云ったら! どんな純粋な油絵具も、その緑玉色、金色は真似られない、実に燃ゆる自然だ。うっとり見ていると肉体がいつの間にか消え失せ、自分まで燃え耀きの一閃きとなったように感じる。甘美な忘我が生じる。
やがて我に還ると、私は、執拗にとう見、こう見、素晴らしい午後の風景を眺めなおしながら、一体どんな言葉でこの端厳さ、雄大な炎熱の美が表現されるだろうかと思い惑う。惑えば惑うほど、心は歓喜で一杯になる。
――もう一つ、ここの特徴である虫のことを書いて、この手紙のような独言はやめよう。この家は、茅屋根であるゆえと、何かほかの原因でひどく昆虫が沢山いる。朝夕とも棲みしていると、ひとりでに、アンリ・ファブルの千分の一くらいの興味をそれ等の小さい生物に対して持つようになった。例えば、こうやって書いている今、すぐ前の障子に止って凝っと動かない蜘蛛、味噌豆ほどの大きさの胴も、節で高く突張った四対の肢も、皆あまり古びない鯣のような色をしているのが、私に追っかけられると、どんなに速
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