ん》のうらの、醜さ、卑劣さとして、世界的に唾棄されている。軍につながる高級官僚たちが素早く我をかばった保身の術も、同情をもってみられてはいない。
 いま新京を遁走するという八月九日の夜、観象台の課長であった著者の良人が、責任感から、他の所員を引揚団の団長にして自分は一応残留したという事実に、読者は、そのときその人の妻が良人に向っていった言葉とは、ちがった行為の価値を見いだす。妻はおどろきと悲しみにとり乱して、良人が見栄とていさい[#「ていさい」に傍点]と優越感のために、ただ一つところで働いていたというだけの人々のために、自分の家族を見すてるつもりか、となじった。その感じかたのままで話せば、きょうこの著者は、ただ同じところにつとめているというだけの人々が住んでいる官舎で、住宅難も整理の不安もなく暮しているということにもなるだろう。そして、それは、妻にののしられたにかかわらず科学者として職務の責任感から残留もした良人によって保たれた地位が妻にもたらしている条件である。もしこの科学者、官吏が命を失っていたらどうであろう。その人の努力、妻たる人の奮闘がどのようであろうとも、三人の子供をつれた未
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