長宅へやった。行った人間は、白鞘をすこしのぞかせたそうだ。裁判は急転直下、有利に解決し、今度は乾分をやった方の男が音頭をとって経営しはじめたが、この男は満州へばかり度々出かけるし、濫費するので、遂に専務をやめざるを得なくなった。
ここへ別の一人物が登場して来る。某大銀行の持っているドックで働いている人で、自分のものが時節柄欲しくなったのであろう。ごたついているところに目をつけて、例の満州へよく行く人物を、技術家の代理と称さして、先代と口約を交してあった後継息子のところへ株を貰いにやった。頼まれた人物は創立当時の価格でそれをうまく受けとって、現価で依頼人に売った。そのことは、半ヵ月も経って初めて技術家にわかった。技術家はそのようにして、今日二十年来の資産の大半を失ったのである。
こういう有様で、その四十万円の修繕をやるにつけても、ドック会社は現金欠乏であった。そこで会社は材料を持つだけにして、労働者の方は、夫々の組から入れさせることにした。組が入れた労働者には、工場法が適用されない。そのこともあるのであった。
会社のやりくりがうまくゆかないときには組が賃銀を立てかえる。急な設備がい
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