御すて早く、あぶない」
と男は不安そうに云った。
「あんたがこわいから? ほんとにさっきは面白かった、先にどくでも塗ってありゃあなお面白いんですわ」
「それで私が段々紫色になって死ねばサ、そうだろう」
「エエ、わたしゃ人間の死骸と蛇と女郎ぐもとくさった柿がすき」
「そんないやらしい事ばっかり云わないもんだよ、私は段々お前がこわくなって行く。逃げ出したいと思ってるだけど私はどうしたものか手足を思う様に動かす事が出来ない。私しゃ心から御前に惚れてるんだろうか、それでなけりゃあいつでも私はにげられるはずだ」
「そんな事どうだってようござんすわ、私の体からしみだすあまったるいどくにあんたはよっぱらって身うごきが出来ないんです。あんたが逃げたって必[#「必」に「(ママ)」の注記]して逃げおおせないと云う事を私は知ってますわ……」
「私がもしにげおおせたらどうする?」
「それじゃ今日っから蛇に見込まれた蛙がうまくにげ失うせるか見込んだ蛇の根がつきるか根くらべをして見ようかしら。
見込んだ蛇は死んでも蛙をのむと云う事は昔からきまってる……」
女は前よりも一層ひやっこい眼色をして云った。
「そんな
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