)」の注記]ぴりたまって居るのを見つけた。
 男はそれを見て急に痛のました様にチューチューとそこを吸って紙でふいて外套の中にしまった。何でどうしたんだかどうしても分らなかった。
「フフフフフフ」
 鼻の先でとび出した様に女はそれを見て笑った。その声をきいた男は腹だちながら考えながら、「ヒヒヒヒヒヒ」と笑い返さないわけには行かなかった。恐ろしさと又何とも云う事の出来ない様な感情におそわれて男は口をきく事が出来なかった。だまって女の傍にならんで歩いて居るといきなりよろけるほどに男はこづかれた。
 ビックリした目を女に向けると水色から生えた様に出して居る手の指先に何かが光って居る。歩く足をゆるめるとそれが紫の糸の通って居る絹針だと云う事とその先に一寸曇って血のついて居るのが分った。それと一緒に自分を射したものも分った。男はそれをとろうとすると女はつ[#「つ」に「(ママ)」の注記]ばやく手をひっこめてどこか分らないところににぎってしまった。男は手を出したら又刺されそうに思われたんでそのまんま又歩き出した。男は、女の前ではどんなに気を張ってもうなだれる自分の心をいかにもはかないものに思った。

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