瞳と動かずにある女の瞳とはぶつかって男はふがいなく目をそらしてしまわなければならなかった。
「わたしゃもうあんたとあるくのがやになった――」
 お龍はフッと立ちどまって斯う云ってサッサッと向う側を一人でわき目もふらずに歩いた。女がこんな風をするのはただあたり前の女が半分あまったれでするのとは違って何となくおそろしいものの様な気がして男はすぐにも追って行って又ならんで歩きたかった。けれ共自分は男だと思うと女、たかが十七の女に自分の心を占領されて居ると云う事をさとられるのはあんまりだと思ってともすれば向く足をたちなおしたちなおしあべこべの道を行った。お龍とすれ違う男と云う男は皆引きつけられる様に行きすぎたあともあたりをはばかりながら振り返って居るのを男は見て、どうしても独りで歩いて居ることは出来なくなった。
「何だ! いくじなしにもほうずがあろうワイ、ハ! 馬鹿馬鹿しい――」
 自分で自分の心を男は罵って見たが却って女をふり返りふり返りして行く男達がねたましくなって「あの女は己のものだぞ」と男達に見せつけたい気がますばかりだった。口で云えない様な強い力をもった女と面と向って居るのがおそろし
前へ 次へ
全28ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング