さに夜の闇の中に光って居るダイヤモンドの様にキラメイて居た。
 それから又男は一日に一度はキッと女の家の格子をあけた。一日中居る事も夜更けてかえる事もあった。けれ共女が男にさわる事をゆるしたのはそのつめたくて美くしい手の先だけであった。
 若い男の血を目に見えない形に表れないところから吸いとって美くしさはますます女の体にまして来た。女のそばに近よる男は自分の体のやつれたのは知らないで段々美くしくなりまさる女を仰ぎ見て居た。
 女は二十になった。
 男は、
「私は、この頃まるで病んだ様になってしまった。大変やせた、自分でも気のつくほどだもの、私は日ましにやせながら日ましにお前のわきをはなれて居られなくなった」
 うるんだ目つきをして斯う云って居た。
「私達の一番美くしい心ばかりを集めて私達の一番立派な血ばかりを集めてお前は日ましに美くしくなって行くんだネエ」
 こんな事も云った。
「私はお前に一番好いところを捧げつくしてしまったんだから、キッともうじきに死んでし舞うだろう。私は心から御前を思ってたけれ共お前は私を自分の美くしくなる肥料につかったっきりなんだものネエ、見こまれたと知ってにげられなかったんだもの。私はお前の美くしいと云う事をあんまり見すぎてしまった、それで又私はあんまりお前からくらべると正直だったもの」
 やせてめっきり衰えたまだ若い男は毎日毎日来ては女の手につかまって居た。
「私はもうじき近い内に死ぬと云う事を知って居る」
と云った。女はどんな時でもひややかに笑いながら男には手先だけほかゆるさないでつっついたり、小突いたりして居た。お龍はその時お女郎ぐもの、大きなのをかって居た。いつでも自分の指の間に巣を作らせたりくびのまわりを這わせたりして居た。その時もお龍は自分のひざの上を歩るかせて自分ではその来手来手をふさいではからかって居た。こっちに行こうとすると手にぶつかり後にもどろうとするとさえぎられるのでくもはヒラリととんで男の首に這った。それからスルスルと行くさきざきにむずかゆい感じを起させながら胸を這って袖口から出た。それを女がつかまえて自分のひざにのせた。
 くもに這われて居る間男は又とないだろうと思われるほどの快い気持になって居た。
 だまって目をつぶってクモに這われて居る男を見て女は笛の様な音をたてて笑った。
 その日男はたまらないほどあまったる
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