てもう仕て仕舞った事でどうも成りはしないのに。
 ※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は祖母に山田からの報告をしながら、今まで思って居た事を云おうか云うまいかを迷っていた。
 云ったって好い様な事だけれ共、若しそれが事実だったらば、何の関係もないお久美さんにまで悪意を持たれる様になっては、そうでなくってさえよく云われて居ない家の娘と仲よくして居るのを不快に思って居る祖母はどんな事をするか知れないと云う不安があったので、其れがほんとだったら私が云わずとも自然に分って来る事なのだからと思って到々飲み込んで仕舞った。
 けれ共そんなこんなで、昔から山田のために掛けられた種々な迷惑な事を思い出して来た祖母は、※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子が喫驚《びっくり》する位細々しい事まで話して聞かせて居たが、到々仕舞いにはお久美さんの事に落ちて行った。
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「一体|彼《あ》のことお前はどうした事なのだえ、
 私はほんとに不思議でしようがないよ。
[#ここで字下げ終わり]
などと、どうせよくは運が向いて来ない娘とそんな仲よく仕て居たって何にも成る物じゃあない、もっと得に成る友達を作るものだとか何とか云って※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子に気を悪くさせて仕舞った。
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「お前はほんとに変な人だよ。
 十一二の時から風変りなんだものね。
 高沢さんのお嬢さんが遊ぶから来い来いってお云いなさるのに行かないで、あんなお久美なんかと大騒ぎやって居るんだから。
 何にしろあの方だって男爵のお嬢さんなんだからね、つき合って居ればいいのさ。
「まあ、あの事をまだ覚えて居らっしゃるの。
 私もようく覚えて居るわ。あんまり腹が立ったから。
 だってあの時分あのお嬢さんはまだやっと八つか九つ位だったのに私の事を顎で指し図して、
 『之をおしなさい』『彼れをおしなさい』って小間使いの様に用を云いつけて切りたくもない人形の絵草紙だの何だのを切り抜かせられた時はほんとに腹が立った。
 ちゃんとして行ったお客様だのにと思ってね。
 あんな事をさせて喜んで見て居る親が随分馬鹿ですね。あんな事をして着物や人のお辞儀とお世辞のために生きて居る様な女に仕て仕舞うのだから。
 それから見ればお久美さんの方がよかった筈じゃああ
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