居る自分は又他人から世話にならなければならない年で、物質の助力は勿論、精神的にだって、そのためにどうと云う程の力添えも与えられないで居る事がどれ程不甲斐なく恥かしく思われたか知れない。
まだ経験のない一日一日と育つ盛りにあるかたまらない考えでお久美さんを動かして行くと云う事は、まるで性質も之からの行き方も違って居る※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子には不安の様でも不忠実の様でも有ったので、いつでもお久美さんの仕様と云い出した事を判断して居た。
自分で自分が頼り無くて※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は青白い頬に涙を伝わらせた。けれ共お久美さんはじきに涙を止めて云い出した。
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「恭がね、
そりゃあ私に親切にして呉れるのよ。
あんまり伯母さんが甚いってね。
そいでこないだも一寸云ったんだけれ共、
自分の家が信州に在って去年父親が亡くなって一人ぼっちで居る阿母さんが淋しがって、帰って来い来いて云って来るんですって。
だから自分は近々に帰るつもりで居るからお久美さんも一緒に行らっしゃいって云うの。
自分こそこんなにして居るけれど家ではちゃんとして居るからちゃんとお嬢さんにして好い様にしてあげますからって云うんだけれども私そんな事出来るこっちゃあないって断わったのよ。
変ですものねえ。
「まあそんな事云ったの。
ほんとにそんな事出来る事《こ》っちゃあない。
恭だって高が雇人じゃあ有りませんか。
どんな素性だか分りもしないのに……
恭も亦あんまりですね。
仮にも主人の貴女にそんな事まで云うって。
貴女恭は親切だってよく云うけれ共、一体ほんとに親切なの。
あぶないじゃあないの。
「ええ、そんなにこわい声を出さずと好い事よ。
誰もあれの云う事なんか真に受けないから。
だけれどね、親切は親切だ事よ。
いろいろ力をつけて呉れるわ。
それに学問も有るんですものね。
「学問たって中学を出た位なもんでしょう。
「いいえそうじゃあないの。
どっかの工業学校へ入った年に病気で落第したら頑固な父さんがあんまり怒るもんで自棄《やけ》になって家を出て仕舞ったんですって。
だから可哀そうな所もあるわ。
何だかむずかしそうな英語の本も持ってる事よ。
「そりゃあそうかもしれないけれどね。
あんな人に
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