好いとは思いやしないけれどね。
今よりは増しだと思うわ。
一年ましに伯母さんはひどくなって来るし、
どこにどうして居たって私はつまり不仕合せな人間なんだから。
「じゃあ何の尼さんになるの。
「何のってなあに。
「まあ、貴女の所じゃあ此頃キリスト教を信じて居るんでしょう。
だから仏様の尼さんかキリスト教の尼さんかってきくんです。
貴女成るんならどっちになるの。
「あら厭だ、私、
あんなキリスト教の尼さんになんか成りたくもないわ。袋みたいな黒い着物を着てる人でしょう。
衣を着た仏様の尼さんの方が余程好いわ。
私なるんなら仏様の尼さんだわ。
「貴女仏様って何だか知って居て?
[#ここで字下げ終わり]
年若い女に有り勝の何の根拠もない様に軽々と死にたいとか尼さんになりたいとか云う通りにお久美さんまで他人の話をする様な口調で「私成るんなら仏様の尼さんだわ」等と云って居るのを聞くと※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子はフト不愉快な気持になった。
此の出し抜けの問いは余程お久美さんをまごつかせた。
気を計り知れない様に※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子の方を一寸見て下目をしたっきりお久美さんはだまって仕舞った。
当惑した様な頼りない様な顔を見ると※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は気の毒になって優しくお久美さんの手を取りながら、
[#ここから1字下げ]
「尼さんが好い等と云う事はね。
はたでそう分るものじゃあありません。
尼さんになったって貴女はやっぱり人間の女じゃあありませんか。
尼さんになった日から何にも思わず好い事だらけだと思うのはあんまりよく考えすぎてますよ、ほんとに。
そりゃあね、子供の内から頭を丸めてお経で育って来た人は別です。
私や貴女位の年から辛い逃場所にお寺をしたって一年と辛棒がなるもんですか。
きっと、貴女なんかは其の立派な髪に剃刀が触る時にああ飛んだ事をしたと思うにきまってます。
そりゃあ私、受合いだ。
[#ここで字下げ終わり]
と云って笑った。
お久美さんもつれられて微笑はしたけれ共何だかわだかまりの有るらしい様子で、
[#ここから1字下げ]
「でも私どうにかしてもう少し楽になりたいわ。
此頃の様じゃあたまらないんですもの。
[#ここで字下げ終わり]
と鼻声
前へ
次へ
全84ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング