っていないことになる。そのために、労働基準法で、母性保護の諸条件が多くなることで、雇主は、一人当り費用の多くなる婦人を使うより生理休暇のいらない、深夜業の出来る男を使った方がいいと、逆に勤労婦人の生活安定をおびやかすことにもなって来るのである。
勤労人民にとって、時間の内容が、どう詰められているか、ということは、ほんとうに深刻重大なことである。働くものにとって「時間は人間成長の箱である」けれども、働かせるものにとっては「時は金なり」という矛盾した勤労の関係が存在していることが、今日のわたしたちの悲劇なのである。
生産工場でない場所では、より多い一時間の労働の生産が、企業者にどれだけの利潤を与えるかということは、見えていない。ただそこには非能率的に組織された、面倒な書類とハンコのぐるぐるまわしがあって、人々を机にしばりつけている。一日に何時間、書類とハンコは生きている若い命を机にしばりつけているのだろうか。能率よく民主化された執務の方法ということは、人間らしさをとりもどしてゆくための真面目な課題となって来ているのである。
[#地付き]〔一九四七年六月〕
底本:「宮本百合子全集
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