「はだし」に傍点]で内井戸のある石じきの台所で働いたり、畑で働いたりしていた。
 そういう家の屋根裏が物置きになっていた。板じきの真中に四畳たたみが置いてある。わたしは、そこへ小机をおいて、ルスタムの物語を書きはじめた。
 遠くに白山山脈の見えるその村は、水田ばかりであったから、七、八月のむし暑さは実にひどかった。涼しいはずの茅屋根の下でも、吹きとおす風がないのだから、汗ふき手拭がじきぬれた。老人は、毎日毎日汗をふきながら机に向っているわたしを可哀そうに思って、ある日、河原から幾背負いもの青葦を苅って来て、それを二階の窓の下につき出た木片《こば》ぶきのひさしにのせてくれた。こうすれば反射がよわくなっていくらか凌ぎよいものだ、と云って。
 厚くしかれた河原の青葦は、むんむんと水気を蒸発させ、葦が乾いて段々枯れてゆくきつい香りを放散させ、わたしは目がくらみそうだった。それでも八月の二十日すぎて東京へかえるとき「古き小画」は出来あがった。
「古き小画」は宮原晃一郎氏を通じて小樽新聞にのせられた。そのきりぬきをこしらえてもっていた。何年の間、わたしはそのきりぬきをもっていただろう。それはいつか
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