しテーマは、古代ペルシアの王と諸公(英雄たち)の運命を支配していた封建的な関係。同じ社会的な条件で、その愛も全うされなかった男女、その間に生れた雄々しい若者。最後のクライマックスで、封建社会での王は最も頼みにしているルスタムの哀訴さえ自身の権勢を安全にするためには冷笑して拒んだ非人間らしさを描き出している。
「渋谷家の始祖」は一九一九年のはじめにニューヨークで書かれた。二十一歳になった作者が、めずらしく病的で陰惨な一人の男である主人公の一生を追究している。描写のほとんどない、ひた押しの書きぶりにも特徴がある。
ニューヨークのようなところに生活しているとき、若い作者がなぜその人として珍しいほど暗い題材をそれ自身が一つの異常である書きぶりで書いたのだったろうか。時を経た今考えてみると、この「渋谷家の始祖」のモティーヴはきわめて心理的だったと思われる。一九一八年の十二月ごろから、作者はニューヨークで、のちに結婚したペルシア語の専門家であるひとと知り合った。結婚にまで進んだ恋愛の初期に、作者が「渋谷家の始祖」のような題材に着目した点が注意をひく。その当時、作者が全然自覚していなかった心理的な
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