く深い人間精神虐殺の犯罪性の一つがひそんでいる。転向して生を守ろうと欲する人は、自分にも他人にも顔向けのできない思いで、うそ[#「うそ」に傍点]をつき、仮面をつけて、現れなければならない。ここに転向というモメントから、多くの人々の精神が生涯の問題としてむしばまれ、根本から自主性を失って、マルクス主義者でなかったものより善意を歪められ卑屈にさせられて行った本質がある。
「冬を越す蕾」は、治安維持法のこのような非道さにふれていない。それはなぜだったろう。奴隷の境遇とその言葉が、ここにある。治安維持法に抵抗しつつ、その悪法について正面から発言できるものは、当時の日本の民衆の間にはおそらくいなかったのであるまいか。獄中で、非転向で、生命を賭してたたかっていた人々のほかには。
したがって、ジャーナリズムにあらわれる程度の転向についてのすべての論議は、第一の問題である日本の天皇制ファッシズムと、戦争強行に裏づけられている治安維持法の批判、それへの反抗はあらわさなかった。その重要な社会的・階級的モメントをとばして、転向をよぎなくされたプロレタリア作家、その個々の人物月旦。良心と勇気の問題。マルクシ
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