うな社会的心理を根底にもって、社会主義リアリズムの課題を、超階級的なリアリズムの創作方法として日本に紹介しようとする一部の人々の奔走。一九三四年には「非常時」という言葉が用いられはじめて、プロレタリア文学運動の組織が破壊されたのちの日本の文化・文学が見出したものは、全面的な混迷と貧血とであった。「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」は総括的にこの時期を展望している。プロレタリア文学運動の組織とその作家たちのうけた被害の姿を眺めて、居直ったブルジョア文学とその作家が、横光利一の「紋章」をかざして、一方に擡頭しつつあるファッシズムとその文学の警戒すべき本質をさとらずに、右にも左にもわずらわされない「自由な自意識の確立」に歓声をあげていた情況は、まざまざとうつされている。天皇制の「非常時」専制があんまり非人間的で苦しく、重圧にたえることに疲れたプロレタリア作家のある部分も「自由な自意識の確立」に魅惑された。この当時の状態をよむ人は計らず太宰[#「太宰」は底本では「大宰」]治の生涯と文学とに対して、民主主義文学の陣営から、含蓄にとみながらその歴史性を明確にした批評が出ることの意外にすくな
前へ
次へ
全19ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング