国際作家大会の議事録を翻訳紹介して日本にも平和と文化を守る広い人民戦線運動をおこそうとしても、なんのまとまった運動にもならず、舟橋聖一、豊田三郎などの人々によって「能動精神」とか「行動主義の文学」とかが提唱されたにとどまった。
この時代、日本の反ファシズム運動が結実しなかったのには、根本的な理由があった。それは、一九三二年以後に日本のプロレタリア文学運動がひどい弾圧をこうむってから、当時の文化人・文学者の中には文学の階級的な本質――この基礎の上にこそ現実の反ファシズム運動と平和と文化の守りはたつのであるが――この社会的良心の土台石になるところを回避する傾向が一般的に強くあった。ファシズムそのものが全く帝国主義の政治的現象であるのだから、それに対する反ファシズムの動きは自然その犠牲とされることをこばむ、より多数の人民の意志として政治的な性質をおびないわけにはゆかない。権力は日本の「能動精神者」たちを政治性・階級性にふれればすなわち治安維持法でと巧みにおびやかしたし、同時に「能動精神者」たちは、当局のそのおどかしをなにかの楯として、自分たちと旧プロレタリア文学運動に属していた人々との間に
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