的なものに細分され奇形で無力なものになってゆくかの岐路に立った。この極めて興味のある文学上の課題はすべての人々がみているとおり今日またちがった歴史の段階に立って、解決され切らない課題として複雑な波瀾のうちにおかれているのである。
当時のわたしは、無産派の文学運動の本質をよく理解していなかった。無産派の人々が当時の未熟な試案の下でこの社会と文学との上に主張した「出生」の問題――貧乏人でなければ、或は労働者でなければ新しい社会の建設やその文学に参加出来ないものであるという風な考えかたが、わたしに納得ゆかなかった。納得ゆかなくてもそれを発展させるような理論はもっていなかった。無産派の運動にとってわたしとわたしの文学とは無きに等しいものなのであった。
わたしは、自分として書かずにいられなかった長篇「伸子」をこれらの期間にかいた。そして、それと平行して、この第三集にあつめられた「小村淡彩」「一太と母」「帆」「街」などをも書いた。
一九四七年九月
[#地付き]〔一九四七年十月〕
底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
1981(昭和56)年5月30日初版発行
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