ボルシェビズムの対立のはっきりしはじめた時代であった。蔵原惟人・青野季吉その他の人々によって、芸術の階級性ということが主張され、文学の社会性の課題がとりあげられていた。文学様式としては、第一次大戦後のドイツにおこった表現派、ダダイズムが流行的であった。
 無産派文学の運動――すべての国で人民の多数を占める勤労階級の生活とその感情を表現する文学が、従来のブルジョア階級の文学にかわるべきであるという考えは、第一次ヨーロッパ大戦の後、旧い権威の崩壊と中流社会のプロレタリア化を経験したすべての国々で常識の一部となった。しかし、この運動は決して摩擦なしには発展せず、日本では、中村武羅夫、菊池寛その他の人々が文学の芸術性という点から、どこまでも無産派の文学運動に反対した。旧いブルジョア文学にはあき足らず、しかし、無産派文学には共感のもてない小市民的要素のきつい若い作家たちが、新感覚派や新興文学派のグループにかたまった。
 文学におけるリアリズムの歴史としてみれば、この時代から、日本のブルジョア・リアリズムはこれまでの落つきを失った。そして、その限界をのりこえてより社会的に発展するか、またはより主観
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