が、日本よりも早く実現されつつある社会として、ソヴェト社会に対する関心は現実的に深まっている。第九巻に集められたソヴェト報告は主として文化、文学問題にふれている。これらの報告は、こんにちのソヴェト作家としてシーモノフの名と作品を知っている日本の人々に、シーモノフが工場の文学サークルから文学的誕生をしてのびて来るそれ以前の時期において、ソヴェト社会は、その勤労人民の日常生活にどんな文化、文学の開花の可能性を準備していたかという実際を知らせる役に立つ。一九二九年に、ソヴェトの文学サークルは何をしていたか、どういう活動の方向をとっていたかということは、こんにち日本の民主的な文学運動として発生している全国数百の文学サークルの成長にとって、いくつかの参考になる点を示している。労農通信員《ラブセルコル》の問題も、現在の日本の民主的文化運動の中では、その重要性が十分理解されていない。日本の民主的な文化、文学運動をより発展させるために有益なモメントがいくつか発見されるという意味からも、こんにち、これらのソヴェト報告は生々とした価値をもっている。
これらの報告の書かれた一九三一年から三二年ごろ、日本の人民的な文化、文学運動は日本プロレタリア芸術団体協議会が中心となり、一九三一年十一月からは日本プロレタリア文化連盟に統一されていた。文学の創作方法の問題では、プロレタリア・リアリズム・唯物弁証法的創作方法、社会主義的リアリズムへと世界の歩みにしたがって進み、全国に文化、文学サークル組織のつくられた時期であった。
そして当時のファシズム権力の下でサークルの活動は、人民解放運動のための二重三重の必要にこたえなければならなかったために、多くの困難に面しはじめた時期であった。
一九四九年一月
[#地付き]〔一九四九年四月〕
底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
1981(昭和56)年5月30日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第2版第1刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房
1953(昭和28)年1月発行
初出:「宮本百合子選集 第九巻」安芸書房
1949(昭和24)年4月発行
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2004年2月15日作成
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