積極な親しさについては既に一つの定評をなしている。
けれども、壺井さんについていわれるその人柄のよさというもの、虚飾なさ、健全さというものも『暦』一冊を丁寧に読めば、決して単純な生れつきばかりでああなのではないということが考えられると思う。相当な年で円熟しているというばかりでもない。この作家の持ち前のなだらかに弾力ある生活の力は、少女時代から結婚生活十七年の今日までの間に、社会の歴史の推移について妻の境涯もなかなかの波瀾を経て来ていて、しかも、それぞれの時期を本気で精一杯に生きて来ている。十六の少女として父さんと浜で重い材木を動かす手伝いをして働いた時から、ずっと勤労の生活が経験されていて、その経験は、天性の気質に、一つの現実的な厚いゆたかで強靭な裏づけを与えることとなっている。
作者がある意味で話し上手で、楽な印象を与えるから、壺井さんの作品をよむと成程自分もこんな風にすらすら話して行けばいいのだと思えるかもしれないけれど、強《あなが》ち誰にでもああ書けるものではない。模倣されそうで案外それはむずかしい。壺井さんは十年も前から折々小説を書いて来ていて、自分のあの物語りかたを見出し
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