『静かなる愛』という詩集が出ている。
幼いときから苦しい境遇に育って、永い闘病生活のうちに詩をつくって来た女詩人であり、統一された境地を今の心にうちたてている詩人である。
同じ題で六月の『新女苑』に過去の生活が書かれている文章もよんで、生活の困苦というものの女のうけた、そこからの高まりかたの女としての特色などについてさまざまの感動をこめて考えさせられた。
この女詩人は生みの母を知らず祖父母に養育された。父は家によりつかない男であった。祖父母に生活能力がなくて、みじめな貧しさのなかで孫が働き、辛うじて糊口をつないだ。世間には男の児だとそういう境遇のめぐり合わせにおかれるものも決して一人や二人ではないだろうと思う。
若い肉体に重すぎる生活の荷にひしがれて病気を発することも、その病気のために働きを休めば一家は饑餓にさらされることから遂に倒れてのち已む決心で働きとおす哀切な強い精神を持つ少年青年たちも、今日ただいま決して一人二人ではないであろう。
だが、竹内てるよさんのように、借金のかたに借金主の息子の妻にさせられるというようなことは、男の子の受けない悲しみと苦しみではないだろうか。
前へ
次へ
全15ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング