のお医者様」という題で、暖かそうな机の前で白髪の爺さんが、赤い帽子の孫娘がさし出す人形をおどけた呑気な顔で診察する真似をしてやってる絵だ。二三枚同じように罪なさそうな犬っころだの小鳥だのの色刷絵がある。
『キング』は労働者の家庭にも農村にも入るのだが今日の軍事経済政策による深刻な生活難で、どこの誰の爺さんと孫が実際こんなにヌクヌク安楽な目をして暮らしているか? 欠食児童なんか聞いたこともない。稼ぎてを戦争へ引っぱり出されたので、生きる手段を失い首をくくって死んだ七十の爺さんなんか一人もいない日本だと云いたげな、絵そらごとだ。
 資本家地主の専制的な権力をよりあってかためている軍人華族ブルジョア反動教育家などの写真を何枚も見せられ、外国人の写真が出たから何かと見ると下に「人生の快事」と題して「人生にすべての苦難がなくなったときの索漠たる物寂しさを想像して見よ」この世は辛いのでいいのだという金言みたいなのがのっている。

 実にブルジョア地主が、好きで繰返す言葉だ。頁をくって見ると、『キング』の至るところにこの種類の金言がはめこまれている。「老いて楽をしようと思えば若いうち蟻のように働け」
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