って本源的な彫刻への欲望を十分理解していた。それにもかかわらず、彼女がその仕事に熱中しある成功を獲てゆくと、良人としてのマークのひそかな苦悩は次第につのった。婚約時代にもマークはスーがおりおり自分の手をぬけて、どこか遠いところへ行ってしまう、そして自分の知らない人になってしまうと云って訴えることがあった。スーザンはそのたびにどんなに体じゅうで彼のその気持を忘れさせ、彼のものである自分を納得させようとしただろう。彫刻の教師であるディヴィッド・バーンスが彫刻修業のためパリに行けと云っても、スーは良人や子供たちとはなれては充実しない自分の生活感情をはっきり知っていて、その誘いに応じなかった。
スーザンは、自然でゆたかな一人の女として、愛する良人のマークなしで生きてゆける自分だとは思っていなかった。彼女は彼なしに生きてゆくことは出来ないのだ。けれども、彼だけでは満足出来ない。子供だけでも、家だけでも、両親だけでも、町だけでも、彼女は満足出来ない。けれども、彼女にはこのどれがなくても、自分の命の充実は欠けて感じられる。自分の仕事だけでも、やはり彼女には満足出来ないのである。
マークが、スーザ
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