『この心の誇り』
――パール・バック著――
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)燦《かがや》き

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九四〇年九月〕
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 私たちは、どんな本でも、自分の生活というものと切りはなして読めない。そして、どんな本を読んでも、最後にはその印象が落ちてみのる生活の土壤というものは、日本の社会のさまざまな特質によって配合され、性格づけられたものである現実も知っている。私たちは、植物のようにひとりでにその土壤から生えているのではなくて、力よわくとも一人の人間の女であるから、自分の生命の価値について冷淡ではあり得ない。よりよく生きたいという切望は、特別女の心の底深く常に湧き立っている熱い泉である。よしやその泉の上に岩のおもしがおかれて人目からその清冽な姿がかくされていようとも、また、小ざかしく虚無を真似て自分からその泉の小さい燦《かがや》きに目をそむけていようとも、やっぱりよく生きたい、という願望の実在は消されない。
 よく生きたいという女の希望の面は多様だが、今日、若い世代に一番共通
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