ない。全日本の私たち、すべての人間が、これまでいく久しい歳月の間、民主日本の発足とともに、子供に話してやることさえも出来ないような片手落ちに書かれた日本歴史で養われて来ていたのであったという深刻な反省をもとめられるのである。
 かえりみれば、これまで私たち日本人が教えこまれていた日本の歴史は、むきになって強調されていた上代の神話と、後代の内国戦の物語、近代日本の支那・ロシア・朝鮮・満州などにおける侵略戦争とその植民地化との物語であった。その時代時代の軍事上の覇者たちが英雄権力者として扱われていた。庶民の日々の営みとその生産の発展などにつき、これまで、日本歴史は眼をくれなかった。幼ごころのそもそもから、軍事的であり侵略を勝利として扱ったものの考えかたで養われてきた正直な幾千万日本人が、今回の第二次大戦で支配者に万事をあやまられしかもなおそれを十分自覚していないようなのも、さけ難いことであった。
『くにのあゆみ』が、従来のように東洋における覇権の争奪者としての日本を描き出す態度をすてて、平静に、われらが生国日本における民族生活の推移と、諸外国との関係を扱っているのは当然である。新制『くにの
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