『くにのあゆみ』について
宮本百合子
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(例)[#地付き]〔一九四六年十月〕
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去年の八月からきょうまで、十四ヵ月ほどの間、日本じゅう幾百万の国民学校の上級児童は、日本の歴史教科書というものを失っていた。
小学校令が行われ、国定教科書で教えるという方法がきまったのは明治何年であったか知らない。けれども、日本の子どもが歴史の教科書をもたなかったことはかつて無かったことなのであった。
その異常な経験におかれた日本のこどもがやっと新しい『くにのあゆみ』を持つことになった。各新聞に、その梗概がのせられている。政府は、新しい民主憲法を、何故か世界民主国人民の祭日である五月一日に実効発生することをきらって、十一月三日に発布することにきめた。文部省は一億円という尨大な予算を憲法祭のためにとった。新歴史教科書もその関係で発表されたのであろう。
考えてみると、このようにして日本の児童が新歴史教科書をもつようになった事実は、決してただ国民学校の一課目の教科書が新しく制定されたというだけの意味では
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