一部の日本の作家達の経済的向上を語ったと同時に、微妙な独特性でその後におけるそれらの作家達の社会的動向に影響を及ぼした。
一九二九年以来、世界の事情は急変した。久米正雄氏が嘗て美しい夫人を伴ってアメリカ人と肩を並べ悠々漫歩したパリのヴル※[#濁点付き片仮名「ワ」、1−7−82]ールには、きょう、その時分にはなかった種類の示威行列がねっているそうである。与謝野晶子、藤村などが詩を語って、思い出の中にまざまざ生かしているであろうカフェー・リラで、今日声高く談ぜられているのは常に必ずしも、文学、音楽のことのみではない。横光氏は座談会で云っている。「外国の文士というものは聊《いささ》か政治批評をやっているね」と。
大体、外国人から、あなたの国はどういう国ですか、と訊かれたとき、返事に困らない者はないであろう。アメリカ人やフランス人たちが日本へ来てもこういう困難には一度ならず出逢うに違いない。だがそれは、日本人が外国へ行った場合に遭遇する困難とは比較にならないと思う。何故なら、アメリカにしろフランスにしろ、外国の文化人の理解の中に浸みこんでいるそれぞれの国の概念というものは現実の生活とあらま
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