で生きぬいた。野蛮だった日本の軍隊組織、がむしゃらだった戦争。満州で土地の人民の生活をこわしたその力のはねかえりで、自身の家庭さえうちくだいてしまった軍国主義精神。「四千の兵隊を指揮した連隊長」という立場は、四千人の人々の生死とその家族の運命に絶対的な破壊への命令を与えた立場でもあった。そのような立場の人の妻であったという一人の女性のめぐりあわせ。私達に多くのものを考えさせる。
結局、こういう原稿の募集のなかでは、最も惨めな条件の畳まりで、社会の底に沈んでゆきつつある母や子の発言はきくことができない。より深い痛ましい今日の問題は、書かれないところで生きて解決をもとめている。そのことを痛切に感じる。
三
今回は、二十五篇の中から五篇をえらび出すことになった。わたしは「未だ亡びざる人々」、「尼になる日」、「未亡人のその名を呪う」、「或る女の手記」、「わたくしは生きる」をえらんだ。
「未だ亡びざる人々」を最後に附記されている『婦人公論』編集部宛の長瀬澄江さんのことばまでとおしてよんだとき、その手紙と本文の文章とのあいだに、切なさとはこういうものと思わせずにいないす
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