そういう条件をつけて募集されたのですから、賞金を出されなければならないならば、私としては、手記にあらわれている範囲で、最も生活が経済的に苦しいと判断されるかたに最も多い賞金を与えたら、と思います。みなさまの御考えはいかがでしょうか。
 その場合、散文の方が短歌よりも判断の具体的なよりどころを示しております。短歌はむずかしいことだろうとも考えられます。しかし賞金のことは、どうか皆様、お話し合いの上心ある御処置を期待いたします。
一、もし文集として編集される見とおしがあるならば、わたしとしては、三篇五篇というなかには入らなかった記録のうちで、収録されたいものがあります。様々の生活のありかたを公平に照し出し、読者にそれについての省察を自由にして貰う条件をひろくするために。たとえば、短歌で入っていられる神戸照子さんの手記(これは二通あります、只今手もとになくて、そのどちらをと申しかねますが)。第三回目の分に保健婦である婦人の手記があったと思います。それから告白など。悪戦苦闘手記にかたよらず、人はいろいろむずかしさを通して、人間らしくどう生きるかということをひろいところから考えに訴えるように。
一、「きけわだつみのこえ」に「読みとりかた」がつけられていて、はじめて現代生活の意味がいきているということは、この文集とも無関係でないと思います。
 その点につきましても御配慮下さい。
[#地付き]〔一九五〇年一―四月〕



底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年3月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房
   1953(昭和28)年1月発行
初出:「婦人公論」
   1950(昭和25)年1〜4月号
※底本の「解題」(大森寿恵子)は、この作品名を「仮題」としています。
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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