めました。インドには、フロラが行くことになりました。家には、ヒルダと長姉のアンナが残ることになったのですが、ロザリーは、そのアンナと毎晩一緒の室に眠らなければならないのが堪りませんでした。
 元から、アンナは、姉妹の中でのけ者にされ自分も意地を張って妹達と親しみませんでした。フロラとヒルダは一緒になって、家の手伝いばかりしているアンナを嘲弄します。何ぞと云うと「法王様が仰云って?」と云います。アンナは、何だか旧教くさく、尼さんくさいからと云うので。
 ロザリーは、どちらにもつかず、公平な態度を保っていましたが、アンナが夜中にまで、跪ずいてお祈を繰返すのには恐れました。
 お祈はきまって一つです。妹のフロラが彼女に自分の幸運をゆずろうともせず意気揚々とインド行の仕度にロンドンへ父と出かけた後は特にひどくなりました。
 彼等が去ってから二度目の日曜が来ようとする前の晩、ロザリーは、又アンナの祈の声で目を醒しました。アンナは、又「それは女には辛うございます。ああ神様。貴方は、それがどんなに女にとって辛いか御存じです。」と祈っています。何遍ロザリーはこの文句をきいたことでしょう。彼女は、
「アンナ、アンナ」
と姉をよびました。
「何故女には辛いの?」
 姉から得た答はこうでした。
「男の人達は何でも好きなことが出来るのに女はそれが出来ないから辛いのです」
 そして、後を向きアンナは、
「私はここに、あこがれを持っている」
と云いながら、両手をしっかり握り合わせ、音のする程自分の胸を打ちました。
「私はいつも持っていたのだし、これからもずっと持つだろう。ここに、燃えている、うずいている、そう云うあこがれを、持つようになると、貴方は――貴方は――」いきなりアンナは、まるで激しい調子でつけ加えました。
「私は男を憎む。男を憎む。大嫌だ」
 そして、ローソクを消そうとして、落し、部屋は真暗になりました。
 この数語は、小いロザリーの頭に刻み込まれました。アンナは、翌日はもうこの世の人でありませんでした。池に身を投げて死んでしまったのです。
 恐ろしい出来事の二週間後、ロザリーは愈々《いよいよ》ロンドンに出、或る寄宿学校に入りました。私立学校によくある通り、金持の娘達がまるで威張るのでロザリーのように学資の豊かでない、伯母のかかりうどの娘は、いろいろなことで、揶揄《やゆ》されたり、な
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