きっと御様などお変えになるのでございましょう。そんな事を遊ばしてはいけません。主の女房御出し申してはいけません」と云ってつれて居ためぶ吉祥などと云う男をとめておいて我身一人内裏へかえって来た時は夜ははやほのぼのと明てしまった。料の御馬をつながせながら、女房の装束をはね馬の障子になげかけ「今はもう御夢も深ういらせられるだろうからだれにたのんで申し入れよう」などと思いながら南殿の方へ行くと十六夜の月はもう南の御庭をわたって西の中間へさし入って居るけれ共君はよるの御殿にも御入りにならないで仲国を御待ちがおに夕べの御座いらっしゃった。南にかけり北に向う、寒雲を秋のかりにつけがたし東にいで西にながる、只せんぼうを暁の月によすと、高らかに御詠じになって居らっしゃる所に仲国が大急ぎで参り、小督の殿の御返事を奉ると主上はななめならず御よろこびになって「相談するものもないからお前迎に行って」とおっしゃったので、仲国は平家のおもわくもはばかったけれ共是も勅定だからと云うので牛車を清らげにさして嵯峨に参り此の事を小督の殿に申したけれどもしきりに参らないとおっしゃったけれ共様々にすかして迎えとってかすかなる所
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