○三月二十四日。
 生ける屍と闇の力を読む。
 又訳に関して感じたのだけれども、闇の力の方は、あれをあのまま芝居にしていい丈訳が洗練されて居るが、生ける屍の方は殆どひどい位だ。何だか、少し無責任だと云う心持もする。若しあの訳言をあのまま頭に入れて仕舞って、生ける屍とは斯う云うものだと云う者が一人でもあったら、それは佐藤氏の罪だ。
 ○闇の力の、代用の場面のついて居るところは、矢張り、代りにとしてついて居る方が、舞台にかけたらよかろうと思う。ニキタが、赤子を押しころすところを、第一のようにされては、殆ど見て居るに堪えない。ニキタの苦しみ、どうにもならなかった彼の苦しみを、体験するのには、あれを見なければなるまい。けれども、第二のナンを用ってあらわしてある方が、もう少し私には安心な心持がし、又日本の目下の警察ではあれを許しはすまい。
 ト翁が、代りに用っていいとして第二の方を書いて置いて下すったことを感謝する。

 ○雨がひどく降って居る故か、右の手の先の方にリョーマチがついた。手が利かなくなったら困るがなどと思う。小野川の温泉へでも行って見ようか。少しひどく痛いのでいやだ。

 ○人間
前へ 次へ
全15ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング