○三太郎と云う猫がひろって育ててある。
○九谷の茶碗が秘蔵である。
○天井の竹竿には、下絵をつけた亀の子の絵が幾枚もかさねてかけてある。
○大きな机には赤く古ぼけた毛氈がしいてある。竹の筆づつには、ほしかたまったのや、穂の抜けたのや沢山の絵筆がささって居る。
○弘法様が信心なそうな。
○妾になる女は、丁度見世物の番人のような顔をして、爺さんをとりあつかって居る。
切角いらっしゃったのだから記念に何かお一つ御書きなすってと云う。おかかせなさってと云うことなのである。
無心で、猫の頭を撫でて居る老人に、かかせては自分で食って居るようでいやだったので、何とも云わずに居る。
◎ハッとして息をとめた瞬間、空中に一杯になって居る小っぽけな羽虫が、一どきにオミヨ、オミヨ、ワラー と大変早口にうたったように聴えた。低いふざけたような音は、そこから、どこまでと云う区切りをつけられないほど広くから起って来た。そしてワラーのおしまいが、ウーンといつまでも尾を引いて、空の真中にのこって居るように思った。
信夫山と阿武隈川
昔ジャイアントが居た。
退屈まぎれにもっこに土を一杯負うて歩き出した。が、今の信夫山のあるところまで来ると、ウンザリしてしまって、負うて居た泥をみんなあけた。ら、それが信夫山になって、そのジャイアントは、その山の頂上に腰をかけて、下をはるかにながれて居るあぶくま川で足を洗った。
○日本武の尊が、きずを洗った古湯。
○穴*の彼方に大変狐が居た。狐火。で汽車がとまった。
はだかろーそくのような形で又炬火の小さいようなものである。美くしい、ヒラヒラ、ヒラヒラともえて行く。
小林区の御役人が来るので、待って居ると、それが見える。
架空索道
(一)[#「(一)」は縦中横]索道は、今から五年前に出来た。
(二)[#「(二)」は縦中横]もいわ、の村から荷を運搬するためで、十二円五十銭ずつの株式組織である。が、今は利益は全然なく、二円五十銭、三円で、一株が売買されることになって居る。
(三)[#「(三)」は縦中横]今のところ廃する問題はないが、こんど改築のときがあやしい位費用だおれになって居る。
もいわ、の鉱山からどしどし鉱石でも出れば、又鉱山の専有にでもなれば有望でないこともない。
(四)[#「(四)」は縦中横]価格のやすいものはやすい金でとりあつかってくれる。ときどき荷が落ちることがある。会社で、その代をはらう。
(五)[#「(五)」は縦中横]何か一つどこかで荷が落ちると、その震動がどこまでも伝る。そしてあの椅子が少し弾むようになったときにあのくいついたところがはなれる。
(六)[#「(六)」は縦中横]箇人的のものをとりあつかって、とめ置きも、配達もしてくれる。ときには、もいわの田舎人が自分のかいものをのせて行ってもらうこともある。
底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
1981(昭和56)年5月30日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第2版第1刷発行
初出:同上
執筆:1917(大正6)年3〜4月
※「*」は不明字。
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2004年2月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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