「奈良」に遊びて
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)協《かな》って

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(例)(一)[#「(一)」は縦中横]
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          (一)[#「(一)」は縦中横]

 古代芸術の香高い所、そして美しい山水にかこまれた「奈良」という土地に対して、私はまあ、どれ位い憧憬の心を持っていた事でしょう。――その望みが協《かな》って、此程、僅かな日数ではあったが、其処に滞在して、一種の渇望を満たすことが出来たのは、此上ない幸福でありました。
 元来、旅行好きな私は、いま迄、随分色々な処を訪れて見ましたが大抵は失望しました。いつも私の想像したツマリ期待の方が勝ち過ぎた結果でありましょう。然し、壮麗な一種の歴史の錆をとどめている「奈良」だけは、この我儘な私を充分満足させて呉れました。
 都の焦々した空気の中にあった私を、ほんとに、ゆったりと落ちつかせて呉れた「奈良」の天地、そこには、北国に於て見るあの寂寥の影が何処にも見出せませんでした。そして何処へ行っても、落ち付いた誇りの色――いつまでも、何時までも
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