かかれた作品はどの位強固な歴史の証左として存在しそれを書いた作家その人さえも、その作品の世界よりうしろには退かせない力として確立されるか。これが作品の古典性につながるのだろう。真に能動的な文学者は、自分の生活の同じ平面をせわしくかきさがしていくつもの作品を手早くまとめるということだけではないと思う。社会と人民の歴史の発展する段階の本質をどの位正確につかんで文学に再現するのか、そしてまた、すでに書かれた作品はすでに生きられた作品であるとして、ある作品を書いたときの自分から自分をどんな風に追い出すことができるか。階級的な作家には、このきびしい追いつけ、追いこせが終生ついて来る。かつて書いた自身の古典のまわりにいつまでもうろついていられない歴史のたたかいのうちに自身を生かしつづけてゆくとき、わたしたちは自分の文学作品の到らなさだけをおそれないで生き、書いていいのだというはげましを感じる。わたしたちの最もゆるぎないはげましは、誰にとってもあきらかなとおり歴史のすすみそのものによる実証である。[#地付き]〔一九五一年三月〕
[#未完]



底本:「宮本百合子全集 第十三巻」新日本出版社
   1979(昭和54)年11月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十一巻」河出書房
   1952(昭和27)年5月発行
初出:「新日本文学」
   1951(昭和26)年3月号
   「展望」
   1951(昭和26)年3月号
   (同時掲載)
※底本が、親本(「宮本百合子全集 第十一巻」河出書房)の脱字を補った記号として用いている「《》」は、「{}」に置き換えた。
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年5月21日作成
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