」「人間が人間自身を世界から消滅せしめ得るようなものを作った。」「しかし社会科学では幸か不幸か、こうした天才が現れていない。もし社会科学者が人間は人間と生活するという極めて簡単なことに同様の天才を示したならば、この世界は全然ちがったものになるであろう。もしわれわれが科学の成果に加うるに人間関係方面の成果をもつけ加えることができたならば、この世の中は完全なパラダイスであろう」「むずかしいことは、人間関係の進歩は自然科学の進歩と歩調をあわせなかったということである」云々と。
 一九〇〇年にはいってからこんにちまでの世界史を虚心にしらべてみたとき、わたしたちは、人間関係の進歩が科学の進歩と全く歩調をあわせなかったといい得るだろうか。バンチ博士は博大な彼のヒューマニズムと偏見の拒否にかかわらず、現代の世界に、科学の成果に人間関係方面の成果を加えようとするものとして、社会主義社会ソヴェト同盟が存在している事実を見おとしている。ソヴェト同盟はプロレタリア階級の革命という道を通って、すでに三十四年間実在し、第二次大戦では、ファシズムとのたたかいに於て連合国中最大の出血に耐えた。最近では中国が、アジアにおけるヨーロッパ植民地の鎖をすてて人民共和国となった。ここにも新しい人間関係方面の一つの明瞭な成果があらわれてる。プロレタリア階級の独裁とはおのずから異ったその民族にとっての現実的な方法で、中国四億の人民生活――人間関係方面は変化した。ヴェトナムでも、人間関係方面は刻々に変化しつつあり、朝鮮における人間関係方面は、こんにち世界の注視をあつめた変動のもとにおかれている。
 国連参加国の内部で、公然と科学の暴力を使用せよと叫んでいる者たちがあることは、もはやかくしようのない世界の事実である。バンチ博士の見解と行動にノーベル賞を与えた人々は、彼の善意を国際政治の道路掃除夫或は屍体処理人夫たらしめないために、誠意をもって科学の成果と人間関係方面の成果との公明正大な結合を承認すべきである。科学の天才[#「科学の天才」に傍点]にたのんで、非人間的なグロバリズム(全地球主義)に支配される国連に、新しい人間関係方面の成果をもって中共が参加しなければならないし、ソヴェト同盟のすべての発言をデマゴギーめいて解説しないではいられないというあやまった神経症が治療されるべきである。ソヴェト同盟、中華人民共和国
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