い頬であり、声高に議論するその声は、どうしたってテノールやバスではあり得ない。女のアルトであり、若々しいソプラノであるだろう。握る拳さえ、女は女のこぶしを握るのである。本質の女らしくなさ、がどこにあるだろう。そうして、活溌に論じ、行動する女の女らしさをいじらしく、雄々しく見ることの出来ない人々が、また、逆に「女らしさ」を武器として使う。相手にいいくるめられそうになり口惜しさに涙でもこぼせば、それ、女らしい。何だヒステリーをおこして、という。ジャンヌ・ダルクがフランスのために乙女の長い髪を切り、甲冑をつけ馬にのって戦ったあと、イギリス軍に捕えられて火あぶりとなった。そのときの罪は、神の定めた女という性を、男のまねをしてけがしたという、宗教裁判であった。
今日、あらゆる面で、「女が女らしくない」といわれる動きかたをしているとすれば、それの本来の目的は何であろうか。一つ一つ、どれとして、社会人として婦人として、人間性と女性なる性の完成のためでないものはない。組合が求めている職場の婦人の要求ほど女らしい公然たる要求がどこにあるだろうか。すべての主婦、学生のために勤労婦人こそトップに立ってそれを求めている。女らしさのゆえにこそ、婦人たる性を愛し尊ぶからこそ、今日婦人は立っている。そのことを、ひとも我も、しんから自覚し、たたかいにおいてさえも婦人の天真な美しさとつよさとを発揮してゆきたいと思う。
[#地付き]〔一九四六年十一月〕
底本:「宮本百合子全集 第十五巻」新日本出版社
1980(昭和55)年5月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十二巻」河出書房
1952(昭和27)年1月発行
初出:「アカハタ」
1946(昭和21)年11月12日号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年6月4日作成
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