「建設の明暗」の印象
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)肯《がえん》じ

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九四〇年一月〕
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 新築地の「建設の明暗」はきっと誰にとっても終りまですらりと観られた芝居であったろうと思う。
 廃れてゆく南部鉄瓶工の名人肌の親方新耕堂久作が、古風な職人気質の愛着と意地とをこれまで自分の命をうちこんで来た鉄瓶作りに傾けて、鉄の配給統制で材料もなくなり日々の生活に窮しつつ猶組合の工場へ入って一人の労働者として働くことを肯《がえん》じがたい心持の失望と苦悩、そういう久作の昔気質の職人肌なものの考えかたは女房友代への態度にも発揮されて最後にその久作も情勢の圧力と妻の情愛、仲間たちのさしのばす手、情理をわきまえた理事長の説得などによって今は軍需品をつくっている工場へ入る覚悟がきまる迄、友代との間に、夫婦の苦しい心持の離反としてあらわれる。そこには頑固親父のために心ならずわかれている素一とゆり子との心持もからみあいつつすべての個人生活の懊悩も経済上の逼迫も、その組合の工場で稼ぐこと
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