によって生ずる感情の偏行にすぎない」と片づけきれない人間の心から発足するのが文学の一つの本質であったと思う。
「我々の魂の中にもし何か価値あるものがあるとしたら、それは如何に他人よりももっと激しく燃焼したかにあるのだ」とジイドの文句が引かれていても、主人公の男がいい家庭と云い、その建設のために妻を教育し扶けようとするという、その実質について全然人間生活という見地からの省察が向けられていない時、読者はどこに作者の魂の価値たるより激しき燃焼を見出すことが可能であろうか。
つまりは世俗の目やすにいい生活というものの基準をおいて、家庭は家庭と代々の凡俗な生き手たちが結論した結論をこの作品の中に知ろうとして、もし現代の若い人々がこの小説にひかれなければならないとしたら、彼等の青春の精神の鋭さと誇りとは、今日の日本の社会生活のなかで、どのように不具にさせられ、麻痺させられているというのだろう。
底本:「宮本百合子全集 第十二巻」新日本出版社
1980(昭和55)年4月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
親本:「宮本百合子全集 第八巻」河出書房
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