一年つづくか二年つづくか当のつかない失業の間を、笑って暮していけるだけ、あなたの旦那さんは金持ちの方でしょうか。
 若し、クビにされる心配は重役だからない。病気で半年休んでもおっかないことはない。クビにするならしろ、笑顔でクビにされてやるというブルジョアなら話は別ですが、あなたのお手紙が、ありふれたノートの紙をひきちぎった上に書かれているところを見れば、そういう方の妻とも思えません。
 良人の方に、まず、何故この頃どの会社でも月給は上らず、手当は減り、しかも何ぞというとクビ、クビでおどすかという訳を、毎日の暮しの間に細かく説明して見せたら、どんなものでしょう。
 万一クビになり、しかも良人が病気になりでもしたら、暮しは誰が保証してくれるか。搾るだけ搾られ、用がなくなれば、生きようが死のうが貴様の勝手と放り出されることは、工場の労働者だって、洋服をきた会社員だって同じことです。
 大学まで卒業した人が三十五円四十円の月給さえナカナカとる口のない今の世の中に、会社が丸の内にあるばっかりに、俺は労働者なんぞとは人間が違うんだと、搾られている当人が思っているとしたらほんとに笑いものです。
 あなたが働くと云えば、良人の方は家のことをしていろ! と云われるそうです。少しでもあなたが自分で金をとるようになると、思うままをするだろうと、それを嫌って止めろと云うのでしょうが、もしも今、目の前で良人が失業つづき、二人の子は育てねばならず、しかも家中売れるものは売りつくしてしまったという瀬戸際になった時、あなたが働くといっても、良人の方はやっぱり女は家にいろ、と云われるでしょうか?
 本に書いてあるそのままの理屈で良人とケンカをせず、じわりじわり、良人の方が良人とし、父親とし、会社に雇われている身では今のブルジョアの世の中でどんな危い橋をその日その日とわたって頼りなくすごしているかを、目に見えるように納得させる方がいいと思います。あなたのお手紙に書かれたところだけで察しると、こういう大切な根気のいい働きかけがされたかどうかと考えられました。
 ソヴェト同盟のような世の中になれば、まず失業はなくなる。万一失業があっても、国家は働く者同士でこしらえているから互に思いやりある組織で、キット失業保険がある。妻子があればその分だけ割増しがつく。六十歳までよく働けば養老保険さえ出るから、安心して職
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