子供には告げることの出来ない複雑な愛憎の陰翳を勇気をもって突きつめて自身に究明することによって、葉子の人生には苦悩を通しての新たな可能性が見出されたのであったろうと思われる。
直接「或る女」には関係ないことであるが、書簡集の中に、ある親密な若い女の人に宛てて作者が送った手紙がある。こう書かれている。「とにかく張りのあるあなたにお会いするのが気持がよい。(中略)張り……それはあなたの身上です。ピンと来るようなところが全く気持がいい。あれであなたから都会人の感傷性とをマイナスすれば当然ソシアリストになる人柄です……と云うと胸が悪くなりますか。」
女の掠[#「掠」に傍点]があった時代の書簡であるから、胸が悪くなる云々の言葉は今日にあっては、その時代の背景の前に解釈されなければなるまい。けれども、水野仙子氏の遺著の序文に書かれている文章を見ても、作者が婦人の生活力の高揚ということについては、唯心的に内面的にのみ重点を置いて見ていたことが感じられる。私には、作者有島武郎が自身の内にあった時代的な矛盾によって、一見非凡であって実は平凡な葉子の矛盾に興味を引かれながら、まぎれもないその理由によっ
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