少佐のような人々をもつ」可能があるからである。こんにちの世界で語られている崇高で理想にみちた「プランも希望も、条約も――すべてこういうものは何物をも保証し得ないのである。それを保証し得るものは人間である。いかなる圧迫にも撓まぬ人間の行動であり、わがジョボロ少佐のような人々のみである」と云っている。さて、ジョン・ハーシーは、マーヴィン将軍の専横によってアダノから追放されたのちのジョボロ少佐の生きかたを明日の作品によってどのように追究してゆくだろうか。「撓まぬ人間の行動」として世界の真実を語ろうとするジャーナリストの仕事を、どう展開してゆくであろうか。日本の読者の心にもジョボロ少佐のその後を案じる現実的なヒューマニティーは目ざめつつあるのである。
「アダノの鐘」の訳者杉本喬氏が、ジョボロ少佐をめぐる軍人たちの言葉{に旧日本軍隊の言葉}をつかっておられることは適切でない。そうしないと、軍隊の実感がすくないように思われたのだろう。むずかしいところであるが、旧日本軍隊の言葉づかいが再生されないと実感に遠いように感じる、訳者相互の感じそのものは問題があると思う。「アダノの鐘」はかなり率直に軍の官僚主義に批評をもって描いている。[#地付き]〔一九四九年十月〕
底本:「宮本百合子全集 第十三巻」新日本出版社
1979(昭和54)年11月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十一巻」河出書房
1952(昭和27)年5月発行
初出:「青年新聞」
1949(昭和24)年10月4日号
(同時掲載)
※底本が、親本(「宮本百合子全集 第十一巻」河出書房)の脱字を補った記号として用いている「《》」は、「{}」に置き換えた。
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年4月23日作成
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