はなく、質に於ては同一の人間的な意欲が、おかれている社会的・箇性的事情との相互的な関係によって、必然的にちがった形で表現され、従って違った形で終結したものであると云われる。
 ゴーリキイの評伝を書くことで、私はこれらの点を、はっきりさせたかったし、歴史の動きと作家の箇性との生々しい関係についても語りたく思った。そして、書きはじめて見ると、箇々別々に書いた感想はそのまま役に立たぬことが分り、七月下旬から八月一杯、私はすべて、ほかの仕事をことわって幼年時代から全く新しく書きはじめたのであったが、まだ健康がすっかり恢復していなかったため、過労になって、高熱をだし、九月と十月は休んだ。本が出来上るのは一月頃になりそうな様子である。出版がおくれるので私はこの文章をも書くに到ったのであるが、どうか読者は私の最も良心的な努力の成果に対して期待と忍耐とをもっていただきたい。[#地付き]〔一九三六年十二月〕



底本:「宮本百合子全集 第十巻」新日本出版社
   1980(昭和55)年12月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第八巻」河出書房
   1952(昭和27)年10月発行
初出:「文学案内」
   1936(昭和11)年12月号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年1月16日作成
青空文庫作成ファイル:
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