穀、繭等相場に関する関心は一銭二銭の汗の代金と連関して猛烈をきわめる。夜浪花節をきき、全国青年雄弁大会をきくより先に、それらの市場の景況を知ろうとする必要からラジオは経済問題とからんで農村に浸透しつつある。
米や繭の価が上って農民の生活が楽になるという風に単純にものを考えている人は今日尠いであろう。昨今の大衆課税の増加と物価騰貴は、ラジオを単に文化施設と見れば農民生活からその増大の可能を削減する傾きにある。大正十四年を一〇〇と見て、農産品価格、農村需要品の価格を見ると、
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農産品 農村需要品
昭和十年 58.4 64.1
同十一年 65.5 67.5
同十二年 70.9 73.3
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昭和十二年五月には、農産品六九・二に対して、農村需要品は七五・三までになっている。そして、小作争議は十一年度五千四百九十七件。関係人員五万二千九百五十二人。土地買上に対する小作権の継続等が主な要求となっているそうである。こうして見ると、直接農村に一般ラジオ加入者が多くなったとは云えず、寧ろ、中農、地主から没落した自作農等の相場への関心或は農産品仲買関係者が、米や繭の売買で幾分かは儲けてラジオでも引こうかという工合になっていることが推察されるのである。
日本全国のラジオ聴取加入分布図というのを見ると、地方の経済事情がどれほど文化に影響しているかが瞭然としていて、心に迫って来るものがある。東京、大阪が最も密度濃いのは当然として、百世帯加入数辛うじて六以下という、ブランクによって示されている地方は、日本に於て、東北では青森、岩手の二県と、九州の突端の二つの県宮崎、鹿児島、琉球等のみである。
工業部門の職業でのラジオ加入は、昭和十一年間に僅か〇・八%の増大を示すのみであるのも、なかなか深い暗示を含んでいる数字であると思う。何故なら景気がよい、就業率は上向きだと云っても、工場に働いている人々の賃銀の上昇には残業割増、歩増などの時間外労働強化がついているのであるし、小売物価の急激な騰貴は結局、いくらかましな工場労働者の賃金をも今日では凌いでしまっている。実質賃銀を小売物価との関係で見ると、昭和十二年の春は前年同期に比べてマイナスの二%九である。こうして見ると、軍需工業の景気の呼声が高い割に、この職業別でラジオ増大率の低いことも何か納得出来る気がする。重工業の大工場は今更ラジオとさわぎはしないのであるし、景気の煽りで夜業しているような民間小工場では、ラジオをきいている暇もない、であろうから。
こういう細かい生活の実況であるにもかかわらず、総体としてラジオが益々大勢にきかれるようになって来ることには、一方で、出版物の高騰、書籍購買力の低下と伴い、一方では確に放送局で着眼しているとおりニュース価値の増大にあるだろうと思う。
極めて最近、特別ニュース放送が日に何回かされるような事情のもとにあっては特にそうであるが、それでなくても昭和七年頃から百万を突破してラジオ黄金時代に入ったというところに、大衆の社会的関心の全く独特な性格、方向が語られているのである。満州事件の起されたのは昭和六年の秋であった。七年には歴史的な血盟団の事件、五・一五事件もあり、日本には所謂非常時という空気が着々濃厚になって来た。それにつれて、ラジオ加入は増大し、「最初の百万に達するには七年十ヵ月を要したにかかわらず、次の百万増加には三年一ヵ月、更に次の百万増加には僅かに二年二ヵ月を要する結果になり、洵《まこと》に驚異すべき好成績を示している。」この好成績によって、放送局は今日では一ヵ月略一億四千万円ばかりの収入を得ている次第なのである。
ところで、今日、大衆のどんな感情の色合いでラジオのニュース価値が増して来ているのであろうか。オリムピック。神風の快翔。いずれも大衆のラジオに対する親密さを増大させたに相異ない。だがオリムピックのニュース及びオリムピック東京招致前後の空気その他、微妙な或る刺戟が大衆の自然な関心に加えられていたことは争われない。生活の楽しさ、世界のひろさ、又その近さ、交誼の平安。それらの感情とは或は全然反対の不安、期待、好奇心を刺戟されることのラジオのニュース価値は増大して来ているのを見のがせないところに、深刻な今日の生活と文化との問題があると思う。
日本全国三十の放送局は中央放送局に統一されていて、番組編成の基準は、「国民文化の表現乃至は聴取者嗜好の反映として見る限りその番組は撩乱の姿を呈している」が、「放送効果の立場よりする聴衆の必然性の吟味或は社会的公正、文化的妥当の見地より指導方針の検討が加えられなければならない。」そして、官営である日本の放送事業は、個人経営のアメリカなどとは違う。「その組
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