す。
「それは何ですか?」
ときいたら、自分の云うことをあやしみもしないで、
「弾丸よけになるんです、満州へ送るんですから、どうぞ」
と、その理科を学校で習っている生徒が答えた。
みなさん、この進歩した武器で、飛行機の上から毒ガスを撒き、バク弾を下す戦いで、チョビ、チョビ赤糸でとめた白木綿が何の役に立ちましょう。刀をふりあった昔、刺子は幾分役に立ったろうが、今では全く役に立たない迷信です。
そんなことをやる間に、小学生たちは、兄貴を殺す[#「殺す」に×傍点]な! 父ちゃんを殺す[#「殺す」に×傍点]な! と、ブルジョア侵略戦争反対[#「反対」に×傍点]の叫びをあげるべきではありませんか。
これは物心の少ない少女だけではない。立派な大学生が、往来で、われわれのブルジョアの尻馬にのり、いい気になって寄附募集のメガホンをふいている。
ブルジョアが経営している劇場東京劇場は早速御用劇「満蒙事件」を上演する。ブルジョア新聞で一つとしてことの真実にふれた報道をしているのがあるでしょうか。
ラジオは一日に何度となく満蒙ニュースを放送する。
これを見て、ブルジョア文化というものが、どんなに臆面なくブルジョア自身の利益を守るためには形を変えられるものであるか、まざまざと理解される。
ブルジョア自身の利益である間ラジオも新聞も劇場も世界平和主義、協調主義を放送する。それがブルジョアに不便となれば、忽ち理屈のあるらしい口実によって、まるで逆のことをドンドン宣伝するのです。
われわれ働くものにとっては、常にわれわれの立場に立ち、真実を明らかに示し、進む道を示してくれるわれわれ自身の文化、プロレタリア文化がなければなりません。
これまでは、各団体が別々に働いていた種々のプロレタリア文化団体が今度結合して日本プロレタリア文化連盟となったのは、ほんとに悦ばしいことです。
その中に、働く婦人大衆のいろいろの文化的問題をとりあげて行く婦人協議会というのもあります。
わたし達みんなの路を照らす正しい篝火《かがりび》として、日本プロレタリア文化連盟を守って強く輝しく育てなければならないと思います。[#地付き]〔一九三二年一月〕
底本:「宮本百合子全集 第十四巻」新日本出版社
1979(昭和54)年7月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
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