るからといって、彼等が自分の女に二十ギンの散歩服を買ってやれる身分だとは考えられますまい。私はストレーカの細君にそれとなく服のことを訊ねてみますと、その服は果して細君の買ってもらったものではないことが分りました。この上はその帽飾店のところを控えて帰って、ストレーカの写真を持って店へ行って訊ねてみれば、事件の秘密はすっかりさらけ出せるだろうと思います。
そのあとは極めて簡単です。ストレーカは馬をつれ出して、燈火《ともしび》をつけても人の眼につかぬようにあの凹みへ降りて行きました。その前に、シムソンは逃げる時、襟飾《ネクタイ》を落して逃げましたが、ストレーカは何か考えがあってそれを拾っておきました。おそらくそれで馬の脚でもしばるつもりだったのでしょう。で、凹みの底へ降りて行くとすぐに、馬の後へ廻ってマッチをすりました。ところが馬は急にマッチの光に驚いて、同時に動物の不思議な本能で、自分の身に何か危険が企まれていることを感じ、ぱっと跳ね上りました。その拍子にストレーカは額を蹴られて倒れたのです。雨は降っていましたが、仕事が細かいためストレーカはその前に外套を脱いでおきました。そして、倒れる
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