に復讐心が強いかと云うことをよく知っていたんで、出来るだけ長く、誰からも自分の正体をかくしておきたかったんでしょう。――それに彼のその秘密は実際破廉恥なものですからね、それを漏らす元気はなかったんですよ。――しかしこうして彼が殺ろされてみると、彼は英国の法律によって保護されて生きていた人間なんですから、よし一度はその保護の盾を破られて殺されたとは云え、英国の正義の剣は、彼のために正当な仇を報じてやらなくてはなりますまい、ねえ探偵」



 以上の話が、ブルック・ストリートの医者とその家の入院患者とに関係した事件のあらましである。――その夜から三人の殺人犯は、官憲によって探索されたが、なかなかつかまらなかった。が、やがて、彼等がノラ・クリーナ号と云うボロボロの船の乗客の間にまじって、スコットランドの波止場に上陸した時、とうとう捕えられてしまった。その船はつい二三年|前《ぜん》、オポルトウの北方数|哩《まいる》のポルトガルの沖合いで沈んでしまった。――それから例の案内係のボーイは、証拠不充分と云うので放免された。すなわちこれがいわゆる『ブルック・ストリートの秘密』として有名な事件のあらまし
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