うもお気の毒なことをしました。あんまり私が用心深すぎて、御迷惑をおかけしまして……」
彼はそう言いながら階段の明りを再びつけた。そこで私たちは初めて、私たちの前に、奇妙な恰好をした男の立っているのを見ることが出来た。その男の顔つきは、ちょうど彼の声と同じように、その藪のように入り乱れた神経をそのまま現していた。彼は非常に太っていたが、しかしいつかはそれよりもっと太っていたらしく、ちょうど猟犬のブラッド・ハウンドの頬のように、ゆるんだ革袋のような皮が、顔の周囲に垂れ下っていた。そうして彼の顔色は一目で分かるほど、病人らしい色つやで、そのやせた赫茶けた頭髪は、いかに彼の感情がはげしいかを物語っていた。――彼は案の定、手にピストルを持っていたが、私たちが近よって行くと、それをポケットの中にしまってしまった。
「今晩は、ホームズさん、よくいらしって下さいました」
彼は云った。
「実は大事件が起きましてね、どうしてもあなたに御足労願わなければならなかったのです。おそらく今まで、私ぐらい、あなたのお力を必要としていたものは、この世界中に一人だってないでしょう。――たぶん、もうトレベリアン博士が
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