ろが僕は静かに僕の椅子に腰かけていたのだけれど、でも、何か手がかりになるようなものを、君にあげることが出来たのかしら?」
「君は故意にゆがめて考えているよ。――一体人間の顔と云うものは、感情を現わす道具として人間に与えられたものなんだ。そのうちでも君の顔なんかは、最もよく感情を現わす顔なんだよ」
「と云うと、つまり君は、僕の顔から僕の思索の筋みちを読んだと云うわけなんだね」
「そうだ、君の顔から、と云うよりも特に君の目からだ。――君はどんな風にして君の瞑想が始まったか、もう一度思い出してくれることは出来ないかしら?」
「そうだね、出来ないなあ」
「それなら君に話して上げよう。――君は、新聞をほうりなげてから、――実を云えば君がそうしたからこそ、僕は君に注意したのではあるが、――ぽかんとしたような表情をして、しばらく坐っていた。その時君の両眼《りょうがん》は、新しく額縁[#「縁」は底本では「椽」]に入れたゴルドン将軍の絵の上にじっとそそがれていたろう。そして君の顔を見ると、たしかに何か瞑想しているらしい表情の流れのあるのに気がついたんだ。――やがて君は、君の本棚の上にあるヘンリー・ワァード・ビーチャーの額縁なしの肖像画へ目を移した。それから壁へ目をやった。無論、君がそう云う風に目を移していった目的はハッキリしているさ。君はその肖像画を額縁に入れたら、壁のむき出しになっている所へかけて、ゴルドンの肖像画とつり合いのとれるようにしようと思っていたんだろう」
「実に君は気味の悪いように僕の気持ちをよく見といたんだね」
 私は叫んだ。
「迷うことなくハッキリ分かったよ。――いいかね、それから君の考えはまたビーチャーに戻って来た。そして君はビーチャーの性格を研究でもするかのように、じっと熱心にそれを見詰め出したろう。がやがて君は目をすぼめるのをやめにした。しかし君は依然としてその肖像画を眺めつづけていたが、その時の君の顔は何かものを考え耽ってる顔つきだった。――君はビーチャーの生涯におきたいろいろな出来事を思い起していたに違いないんだ。僕には、君が、ビーチャーがあの革命戦争の時、北方の利益のために企てた使命のことを考えていたと云うことが、確かに分かってるんだよ。なぜなら君はいつだったか、彼が我々国民の動乱を蒙らされたと云うことについて、ひどく慷慨《こうがい》していたことのあった
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