、このけしからん闖入者について、あなたにお話ししたこととは思いますが……」
「ええ、もう大体のことはうかがいました」
と、ホームズは云った。
「だが、一体その二人の男と云うのは何者なんですか? ブレシントンさん。そうして一体、なんのためにあなたにそんな迫害を加えようとするんですか?」
「そうです、そうです、そのことです」
この入院患者は、精神病者らしい神経質な様子をして答えた。
「それは無論、云いにくいんです。ホームズさん、私はそれについて、あなたにお答えすることは出来ないでしょう」
「とおっしゃるのは、あなたは知らない、と云う意味なんですか?」
「どうぞ、まあ、こちらへいらしって下さい。――まあどうか、こっちへお這入りになって下さい、お願いですから」
彼は私たちを彼の寝室の中へつれていった。その部屋は大きくて、居心地よく飾りつけてあった。
「あれを御覧下さい」
彼は、寝台の裾のほうにおいてある大きな黒い箱を指さしながら云うのだった。
「ホームズさん、私は決して大金持ちではありません。――トレベリアン博士があなたにお話しした通り、私はこの病院に投資した以外には、何も事業などはしていないのです。――そのくせ私は、銀行にお金を預けることが出来ないんです。私は銀行家を信用したことはまだ一度もありません。ですから、私は、私の持っているすべてのものは、みんなあの箱の中にしまってあるのです。――と、これだけ申上げれば、私の部屋に見ず知らずの人間が這入って来ると云うことは、私にとってどれほど重大な問題であるかと云うことは、お分かりになるだろうと思います」
ホームズはもの問いたげな様子をして、ブレシントンを眺めた。そしてそれから首をふった。
「もしあなたが私を信用なさらないのなら、私はあなたに、何もお力になって上げることは出来ませんよ」
彼は云った。
「いえいえ、しかし何もかもあなたにお話ししたんです」
ホームズは不愉快そうな顔をして、彼の踵《きびす》をめぐらすと、
「さようなら、トレベリアン博士」
と、彼は声をかけた。
「私には何も相談に乗っていただけないんですか?」
ブレシントンは、うろたえた声で叫んだ。
「あなたに申上げたいことは、真実をお話しなさいと云うことだけです」
それから数分の後、私たちは街へ出て、家路を辿りつつあった。私たちはオックスフォード街を
前へ
次へ
全25ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三上 於菟吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング